造成費の方が高額となる場合 宅地並みで相続税評価される農地
市街地周辺農地および市街地農地の評価では、宅地並みの評価額から造成費を差引いて評価額を算出します。
(農地が仮に宅地とした場合の評価額)-(評価対象農地の造成費)
その場合、農地が接する道路面との高低差が著しい場合など、農地の宅地並み評価額よりも造成費の方が多額となる場合があります。
(農地が仮に宅地とした場合の評価額)<(評価対象農地の造成費)
つまり、評価する農地の宅地並み評価額 < その農地の造成費相当額 となってしまう場合、計算式のとおりだと、負数になってしまうから評価額は零で良いのだろうかという疑問が生じます。その場合の評価はどのようにすればよいのでしょうか。
回答 → 純農地の価額に比準して評価する。
「宅地への転用が見込めない市街地山林」の評価方法に準じ、「純農地の価額に比準して評価」するように取り扱われています。宅地化するには経済合理的に適当ではない農地も、純然たる農地としての価値はありますから、純農地としての価値分は財産計上する必要があるということです。
純然たる農地の評価の基本となる、農地の固定資産税評価額(評価額算定は市区町村の所掌)はその農地を耕作して得られる農業収入から算定しているというのが建前となっています。
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【事例その1】評価倍率表の同地域内に「純」(純農地)の設定がある場合
評価対象地の態様としてはつぎのとおりです。
- 所在地 高松市川島東町
- 地目 田
- 固定資産税評価額単価 120円/㎡
- 宅地並み評価額単価 20,000円/㎡
- 造成費相当額単価 23,000円/㎡
- 都市計画法上の用途地域内
- 県道沿いではない
評価のながれとしてはつぎのようになります。
- 評価対象農地の所在位置を確認→都市計画法上の用途地域内(県道沿い以外)と判明
- 評価対象農地の宅地並みの評価額よりも、造成費相当額の方が多額になることが判明
- 同じ「川島東町」地域内の「純」農地の評価倍率を用いて評価額を算出
評価対象地の実際の所在位置としては、評価倍率表の(①→)「周比準」と表記されている市街地周辺農地に該当しますので、
( 宅地並み評価額 - 造成費相当額 ) × 0.8 = 市街地周辺農地 の評価額
と評価するのがスジなのですが、宅地並み評価額よりも造成費相当額の方が多額のため、評価額が負数となってしまいます。いかに宅地評価から比準した評価額が低いとはいえ、評価が零ということはなく、少なくとも純然たる農地としての価値は認めるべきです。
そこで、同じ川島東町地域内の(②→)「純8.4」純農地としての評価倍率を用いて評価額を算出します。
120円/㎡ × 8.4倍 = 1,008円/㎡ 1,008円/㎡ × 評価対象地の面積 = 評価額の総額
【事例その2】評価倍率表の同地域内に「純」(純農地)の設定がない場合
それでは、評価倍率表の同地域内に「純」(純農地)の設定がない場合にはどうすればいいのでしょうか。
評価対象地の態様としてはつぎのとおりです。
- 所在地 高松市国分寺町新名
- 地目 田
- 固定資産税評価額単価 120円/㎡
- 宅地並み評価額単価 20,000円/㎡
- 造成費相当額単価 23,000円/㎡
- 都市計画法上の用途地域内
- 国道・県道沿いではない
評価のながれとしてはつぎのようになります。
- 評価対象農地の所在位置を確認→都市計画法上の用途地域内(県道沿い以外)と判明
- 評価対象農地の宅地並みの評価額よりも、造成費相当額の方が多額になることが判明
- 同じ「国分寺町新名」地域内には「中」中間農地しかなく、「純」純農地の設定がないことが判明
- 「国分寺町新名」地域に隣接する「国分寺町新居」に「純」農地の評価倍率を用いて評価額を算出
上の【事例その1】と同様に宅地並み評価額よりも造成費相当額の方が多額になりますので、純農地としての評価額を算出することとなります。
ところが、同じ「国分寺町新名」には純農地の「純」の設定がなく、(②→)「中14」しかありません。そこで、「国分寺町新名」地域に隣接する「国分寺町新居」に「純」農地の評価倍率を用いて評価額を算出することとなります。
【注意点】実際の評価額算出に際しては、隣接する地域の倍率を用いることが相当かどうか、税務署に確認する必要があります。確認すれば、評価方法として何らかの回答は得られます。ただし、確認を取ったとしても、税務署は文書での回答はしませんので、相続税・贈与税申告書提出後に指摘を受ける可能性がないとは言い切れません。納税者側としては、税務署からその旨の照会をして回答を受けた事実の記録を残しておけば指摘を回避できるものと思われます。
「国分寺町新名」地域は国道、県道沿いを除けば田園地帯の中に、ミニ開発された分譲住宅地が散在するのどかな場所です。当然、都市計画法上の用途地域内を除けば、「純農地」の定義のひとつである「農用地区域内にある農地」も存在するはずですので、「純」の設定がされていないのは評価基準書に問題があると言わざるを得ません。
実際の評価としてはつぎのとおりとなります。(③→)「純14」の倍率を用いて評価します。
120円/㎡ × 14倍 = 1,680円/㎡ 1,680円/㎡ × 評価対象地の面積 = 評価額の総額
※記事の内容は更新日現在の法令にもとづいて作成しています。実際の申告書作成等にあたっての、特例適用などにつきましてはご確認、ご検討をお願いいたします。
【相続税専門】岡田隆行税理士事務所 ℡087-816-8889
国税局・税務署での32年間の資産税事務経験を活かして、相続税に関するサポートに尽力します。
事務所は高松市国分寺町、趣味は料理とバイクです。