取引相場のない株式の評価~株価が高いと思い込んでいませんか

非上場の自社株の株価が高いと思いこんでいて、後継者への贈与をためらっている場合があるが、「実際に評価してみたら案外低い株価になるかも知れない」という記事です。

ひとつの事例として、取引相場のない株式の評価上、役員借入金を債務免除した事業年度中に、債権者だった役員が死亡した場合の非上場の会社の株式の評価にはどう影響するのか考えてみましょう。

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類似業種比準価額には影響しない

相談者K山氏「O田先生、この前急死したうちの会長からの役員借入金を、今期に入ってから会社が会長から債務免除を受けていたんです。会社としては負債が減ったことになる訳ですが、上場していないうちの会社の株式の評価に影響はありますか?」

O田税理士「まずは取引相場のない株式の評価方法について簡単にご説明しますね。」

相談者K山氏「はい、お願いします。」

O田税理士「会社の支配権を握っている一定の方が取得する、取引相場のない株式の評価には、類似業種比準価額方式と純資産価額方式があります。・・・


○類似業種比準価額方式

 評価対象の会社の直前期末の1株あたりの「配当金」と「利益金額」と「純資産価額(帳簿価額)」の3つの数値を、同業種の上場会社の株価に比準させて評価額を計算する方法です。

○純資産価額方式

 評価会社の課税時点の資産、負債を相続税評価に置きかえて、その差額から法人税相当額を差引いた額により評価額を計算する方式です。


このふたつの方式を、会社の規模によって混ぜ合わせるか、どちらか選択するかして最終的な評価額が算出されます。」

相談者K山氏「なるほど、それで当期に入ってから債務免除があった場合は、評価にどう影響しますか?」

O田税理士「はい、まず類似業種比準価額には影響がありません。それは、類似業種比準価額は、同業種の上場株式の配当金や利益金額などと比準させる関係上、必ず直前期末の数字を用いなければならないからです。直後期末の決算の数値を用いるという選択肢はないという事ですね。」

純資産価額には反映させる必要

相談者K山氏「分かりました。では、純資産価額への影響はどうなるのでしょうか?」

O田税理士「はい、純資産価額は、課税時点の資産負債がどうだったかということですので、本来は課税時点で仮決算を組んで、課税時点での資産負債の額を計算するのが筋です。ただ、課税時点の資産負債の状況が直前期末と大きな変化がない場合は、直前期末の数字を用いても問題ありません。しかし、御社の場合は債務免除により負債の額が著しく減っていますので、債務免除した借入金の額を負債から除いて、その数字を基に評価額を計算することになりますね。」

相談者K山氏「なるほど、分かりました。類似業種比準価額には影響しないけど、純資産価額には影響するということですね。ところで先生、このふたつの価格を混ぜ合わせたり、どっちか選択したりするということですよね。それは有利な方を選択できるということですか?」

O田税理士「そうです。資産に含み益がある場合、一般的には純資産価額が類似業種比準価額よりも高い評価額となることが多いです。」

相談者K山氏「そうすると、資産の含み損が大きい場合、相続税評価では債務超過になる場合もありますよね。その場合、純資産価額は零となりますよね。類似業種比準価額の数字がいくらか出ていて、純資産価額が零ならば、有利な純資産価額を選択して株価は零になると言う事ですか?」

O田税理士「そうなんです。その可能性はあります。なので、帳簿上の資産が何十億円あったとしても相続税評価に置きかえてみて、その額が負債の額を下回っていれば、その会社の株価は零と言う事です。」


特に注意が必要と思われるのが、評価会社が「大会社」の場合です。

評価の区分が「大会社」に該当する場合、類似業種比準価額か純資産価額のいずれか低い方がその会社の株価となるルールです。

そこで安易に、普通は類似業種比準価額の方が純資産価額よりも安いから、純資産価額をきちんと評価せずに、類似業種比準価額だけ計算してそれが正しい株価だと思い込んでいるケースがある可能性があります。

その正しい株価だと思い込んでいる株価が高すぎるから、後継者への株式の贈与をためらっている方は少なくないと考えられます。

また、思い込んでいる株価が高すぎるから、類似業種比準価額を下げる努力を続けていたりしないでしょうか。

債務超過までは行かないかも知れませんが、類似業種比準価額よりも純資産価額が安くなる可能性は否定できません。

会社の資産に含み損がないか一度チェックすることをおすすめします。


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