倍率地域の宅地評価の落とし穴~相続税と固定資産税の評価単位の相違点

相続税・贈与税の土地評価には二つの方式があります。

路線価方式倍率方式です。

路線価方式は、各国税局長が毎年7月に発表する路線価図(財産評価基準書)という地図の道路に値段が付いていて、その道路に面する土地はその値段を基準に評価してくださいねという評価の方式です。

倍率方式は、市区町村が土地ごとに評価して値付けている固定資産税評価額に、国税局長が定めた倍率表(財産評価基準書)に地区ごとに書いてある評価倍率を乗じて評価してくださいねという評価の方式です。

おおむね路線価方式は市街化が進行している地域に付設されており、それ以外の地域は倍率方式が採られています。

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国(相続税)と地方(固定資産税)で基準が異なる

評価する土地が倍率地域(路線価が付設されていない土地)の宅地の場合、

「ああ、固定資産税評価額に倍率掛ければそれでいいんでしょ~カンタンカンタン。」

と決めつけてしまうと、評価額にズレがでてしまう可能性があるのはご存じでしょうか。その原因は相続税と固定資産税では、宅地の評価単位の考え方が異なっており、そこから問題が発生します。

相続税と固定資産税、それぞれの評価単位の認識の基準は以下の通りです。


相続税評価の宅地の評価単位 「財産評価基本通達」

利用の単位となっている」1区画の宅地を評価単位とする。

・・・基本的に所有者ごとに評価します。


固定資産税の宅地の画地の認定 「総務省の固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)」

基本:一画地は、一筆の宅地による。

例外:二筆以上の宅地について、一体をなしている場合は一体をなしている宅地ごとに一画地とする。

・・・基本的に筆を単位に評価します。


つまり、一筆の宅地を異なる利用方法で使っている場合、相続税評価と固定資産税評価では評価単位にズレがでてしまうということです。

評価単位がズレる例

郊外型商業施設(スーパーやホームセンター)の敷地
相続税の目線(画地) → 奥まった場所の道路に面していない土地は「無道路地」
固定資産税の目線(画地) → 道路沿いの土地も、奥まった場所にある道路に面していない土地も「一体利用」だから同一の評価額

所有者が同じでも、権利関係が異なる場合
相続税の目線(画地) → 所有者自ら利用している「自用地」、他人に建物を建てさせて貸付けている「貸地」、貸家を建てている「貸家建付地」 → それぞれ評価単位は別々になる
固定資産税の目線(画地) → 

固定資産税の課税範囲は広く、原則として行政区内のすべての不動産を算定する必要があることから、相続税のように個別具体的に利用状況を調査するとなると行政の負担が重くなるため、評価単位の認定も簡便な方法に寄らざるを得ないというのが実情のようです。

課税が起こる度に個別具体的に評価単位を認定する相続税の評価とは事情が異なり、それが双方の評価単位のズレの原因になっているのです。

たとえば、倍率地域の一筆の宅地の一部をアパートの敷地に、一部を月極駐車場に利用している☟の図のような宅地の場合はどうなるでしょうか。

相続税評価:①アパートの敷地部分=貸家建付地、②月極駐車場の部分=自用地の2区分となります。

固定資産税評価:①アパート敷地部分と②月極駐車場部分を合わせた一筆の宅地の1区分となります。

図のように道路に接している場合、①アパート敷地部分は県道に面していますから、県道沿いの利用価値があります。

一方、②月極駐車場部分は4m市道にのみ面していますから、一般的に県道沿よりも価値は低いと認められます。その結果、相続税の評価単位で区分すれば、宅地評価(標準価格単価)は①>②となる結果となります。

ところが、固定資産税の評価は一筆評価で単価は同一なので、評価額(単価)は①=②となっていしまいます。県道沿いも市道沿いも同一の評価額では、不合理な評価結果と言わざるを得ません。

標準的な単価から補正を行って評価する

このような不合理を解消するには、その場所の宅地の標準的な価格から財産評価基準書に定められた各種補正を行って評価額を算出する他ありません。

具体的には、該当年度の固定資産税の路線価格に宅地の評価倍率を乗じた価格を基準にして、奥行価格補正や不整形補正など適用可能な補正を行います。

上記の例で、宅地の評価倍率が1.1倍の地域の場合の計算をしてみます。

県道側の標準的な価格単価 固定資産税路線価78,000円 × 1.1倍 = 85,800円/㎡・・・A

市道側に標準的な価格単価 固定資産税路線価45,000円 × 1.1倍 = 49,500円/㎡・・・B

①アパート敷地の評価

Aを正面路線価、Bを側方路線価に見立てて、Aに奥行価格補正など必要な補正を行い、Bの側方影響加算を行った上で貸家建付地の減額をして評価額を算出します。

②月極駐車場の評価

Bを正面路線価に見立てて、奥行価格補正、奥行長大補正など必要な補正を行って評価額を算出します。

まとめ

相続税の路線価が付されていない(倍率評価)宅地を次のように利用している場合は、相続税の評価額を計算する際には単に固定資産税評価額に、宅地の評価倍率を掛けただけでは評価額に問題がある可能性がありますので、一度確認することをお勧めします。


〇 一筆の宅地を複数の目的に利用している。

  たとえば、自宅敷地とアパートの敷地とか、自宅敷地と月極駐車場の敷地に利用している。

〇 所有する土地が、隣接する他の所有者の土地と一体として利用されている。

  たとえば、隣接地の所有者と共にスーパーマーケットなどの郊外型店舗の敷地(店舗及び駐車場)として貸付けている。


☛ 倍率地域の評価はカンタンだと思いこんでいませんか


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国税局・税務署での32年間の資産税事務経験を活かして、相続税に関するサポートに尽力します。

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