相続税の申告書作成~相続財産の把握~家族名義預金の判断

相続税調査で、税務署から最も指摘を受けやすいのは、家族名義預金だそうです。

相続税の調査は預貯金の取引履歴の収集から

税務署では、相続税の申告書が提出されると、その申告内容の審査をします。

その結果として大まかに、下の三つに分類されます。

① 実地調査・・・直接納税者宅にお邪魔して(臨宅(リンタク)といいます)申告内容について調査すべき案件

② 事後処理・・・電話で納税者または関与税理士に連絡して、問題点を指摘すべき案件

③ 省略・・・申告内容に特に問題がない案件

実地調査に分類された案件は、照会文書が作成され、取引金融機関や証券会社、生命保険会社などに発送されます。

というのも、所得税や法人税の場合は期間損益に対する課税なので継続性があり、通常の場合取引の帳簿が残されています。

ところが相続税は、相続開始という時点を捉えて、基本的にその時にあった財産に課税するという税金なので、継続性がなく帳簿というものが存在しません。

なので、金融機関の取引履歴を事前に取り寄せてその内容を精査し、実際に実地調査すべき案件を絞り込んでいく訳です。

預貯金の照会対象に制限はありません

照会対象となる金融機関は、相続財産として申告している金融機関はもちろん取引があった可能性のある金融機関すべてです。

それから、ゆうちょ銀行は申告があろうとなかろうと必ず照会されます。

むかしむかしは、「郵便局に預けておけば税務署にはバレない。」といって貯金や保険を勧誘していたこともあったそうですが、今はそんなことはありません。

取引履歴の照会の対象名義人は、被相続人とその相続人に限定はされません。

申告書に添付されている戸籍謄本を基に、孫名義まで照会されている場合もあります。

申告書に戸籍謄本ではなく、法定相続情報を申告書に添付していたなら、孫の名前までは出ないから安心?

いえいえ、税務署の権限で市町村役場に照会すれば、誰の戸籍でもいくらでも取れますから、すぐに把握されてしまいます。

照会対象期間は、通常3年ですが、相続財産が高額な案件や、被相続人の生前の収入が多額であった者、被相続人が医師や弁護士などであった者などの場合は5年、10年と遡ることもあります。

照会の回答があったら、50万円以上とか100万円以上とかの入出金を表計算ソフトに入力して、お金の流れを精査していきます。

そこで、被相続人のお金が相続人や関係者に流れていないかチェックしていく訳です。

家族名義預金の判断基準

被相続人以外の名義による預貯金の帰属については、明確な基準があるわけではありません。

おおむね、下のような項目に照らして総合的に判断されます。

  1. その預貯金のお金の原資を出したのは誰か
  2. その預貯金の管理、運用は誰がしていたか
  3. その預貯金の利息は誰のものになっているか
  4. 被相続人とその預貯金の名義人、その預貯金を管理、運用している者との関係はどうか
  5. その預貯金をその名義人にすることとなった経緯

奥様がずっと専業主婦で、奥様の実家からの遺産相続もなかったにもかかわらず、奥様名義の多額の預貯金があるとかなら分かり易いですよね。

それから、非正規雇用で収入が不安定な子供名義の預貯金が多額というケースも目をつけられます。

そういった分かり易い案件は別として、奥さんも過去に何かしらの収入があったのはわかるが、ちょっと預金が多いなというケースはグレーゾーンですね。

取引履歴の照会期間中に明確な預金の異動がなければ、確実に名義預金という証拠がない訳です。

ですが、

「その預金は、自分のものではなく、死んだお父さんが貯めてくれていたものです。」

と素直に認めてしまうと、「はい相続財産ですね。」となって課税対象にされてしまいます。

正直で素直な納税者が、そうではない納税者よりも多額の税金を納めるという結果となるということです。