家族信託ってなんですか?~認知症対策としてのつかいかた/後見との違いは?
家族信託の制度の概要の説明を受けても、いまひとつ実感がわかない、ピンとこないという方が多いのではないでしょうか。
やはりものごとの理解は事例に接するのがいちばん。だとおもいますので、家族信託を有効につかう事例を紹介していきます。
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認知症対策としてのつかいかたの例
賃貸不動産を複数所有するNさん(76歳)が相談にみえました。
Nさん「センセイ、わしもこのごろ物忘れがおおくなってきてな、それこそ認知症と診断されたらどうしようかと考えとるんじゃ。」
F税理士「そうですね。賃貸物件の建替えや、借入れ金の借り替え、修繕、賃貸契約などの法律行為ができなくなったらどうしようかと心配になりますよね。」
Nさん「そうなんじゃ。息子に賃貸物件を贈与してもいいんやけど、贈与税が高額になるからの。」
F税理士「そうですね。もしNさんに意思能力がなくなったあとでは、後見人をつけないといけなくなります。後見人は被後見人の利益を最優先しなければなりませんから、賃貸物件が老朽化したので建替えるとか、ほかの収益物件を購入したり、新築したり、買い換えたりすることはできませんからね。」
Nさん「意思能力がなくなる前やったらなにかできるんな?」
F税理士「事前の策として家族信託があります。Nさんを委託者、息子さんを受託者として、所有権を息子さんにわたして、Nさんは受益者とする信託契約を結びます。そうしておけば、Nさんに意思能力がなくなっても、息子さんが代わりに意思決定をして、賃貸物件の管理を継続できることになります。」
Nさん「それはワシが意思能力があるうちでないとできんのやな?」
F税理士「そうです。信託は契約行為ですので、意思能力がなくなった後ではできません。ですので、信託はいわば、病気にかかるまえのワクチンのようなものですね。」
贈与税はどうなるのか?
Nさん「でもセンセイ、賃貸物件を信託するとなると、物件の名義はワシから息子に変えないかんのやろ。そうしたら、贈与税がかかるんじゃないの?」
F税理士「そこはご安心ください。取引法のうえでは所有権は息子さんに変わりますが、税法では実質的にどうかということから課税します。息子さんは物件を預かって管理をするだけで、そこから得られる利益を受けるのは、受益者のNさんですから贈与税の課税対象とはされません。」
まとめ 認知症対策としての(家族)信託
親(委託者 兼 受益者)→《親の財産》→ 子(受託者)
- 物件の所有権は親から子へ移転する
- 物件の管理は子がおこなう
- 物件からの収益は親に帰属
- 税法上は受益者=所有者とみなすので贈与税課税なし
後見人と信託の比較
後見人 | 信託 | |
意思の決定権 | 後見人 | 受託者 |
設定 | 判断能力を欠いていても可能 | 判断能力を欠くと不可 |
家庭裁判所への報告 | 必要 | 不要 |
意思決定の基準 | 被後見人(親)の利益に従う | 信託契約の目的に従う |
資産の運用 | 不動産投資などについて制約あり | 信託契約の目的に沿うものであれば可能 |
効果が及ぶ財産の範囲 | 被後見人(親)のすべての財産 | 信託契約上の財産に限定 |
※記事の内容は更新日現在の法令にもとづいて作成しています。実際の申告書作成等にあたっての、特例適用などにつきましてはよくよくご確認、ご検討をお願いいたします。