毎年同額の現金贈与をしていると税務調査が来ないか心配 税務署目線で解説
相続税専門の税理士の岡田隆行(okatakatax.com)です。
贈与税の税務調査をされるのか心配されている方が多いようです。
将来の相続税が多額にならないようにこつこつ贈与していることを税務署が捉えて、何か指摘を受けるのではないか。
この記事では贈与税の税務調査の実情と、調査に選ばれる要因について解説しています。
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【質問】
父母から子、祖父母から孫へ毎年同額の贈与税の申告をしていると、税務署に「まとまった財産の贈与を分けて申告しているだけではないか」と指摘を受けると聞きました。同額の贈与を毎年申告していると贈与税の税務調査を受けることがあるのでしょうか。
【回答】
贈与税の調査がされないとは言い切れませんが、贈与税の調査が行われるのは期限内に贈与税の申告がされていない(無申告)となっている情報を当局が把握し指摘される場合がほとんどです。
高松国税局が発表している統計資料によれば、令和4事務年度の贈与税の実地調査件数は81件でそのうち69件(88.5パーセント)が無申告案件で占められています。調査件数自体が少ないこともさることながら、無申告案件の比率の高さが際立っています。
なぜ無申告案件の割合が異様に高いのか。それは当局が贈与税の税務調査に積極的ではないということです。
そもそも贈与税法という税法自体は存在せず、相続税法の一部に記述がある税目に過ぎません。贈与税は相続税の課税の網から逃れられないようにフォローするための税目(補完税)という位置づけなのです。
補完税とはいえ、贈与税の課税が必要な案件を野放しにしてはおけませんので、国税当局は一定の資料収集を行ってそこから贈与税の課税対象者を抽出して「当確」案件だけは調査を行って課税していることから、無申告案件の比率が高くなっているのです。
それでは、国税はどんなところから資料を収集しているのでしょうか。
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不動産登記資料
不動産登記はオンライン化されており、法務局が管理する登記情報は資料として国税側に提供されます。売買、相続、贈与など様々な登記原因により課税される税目が異なります。登記原因だけでは課税される税目が特定できない場合には、国税局や税務署からアンケートのような形式で各種のお尋ねが当事者あてに送付されて、その回答によって税目を特定する作業が行われます。
住宅ローン控除適用案件から
住宅ローン控除はローンの年末残高と実際の家屋等の建築費のいずれか低いほうの何パーセントかを上限に所得、住民税額控除が受けられる制度です。この家屋等の建築費については、住宅資金の贈与を受けている場合にはその贈与額を建築費から差し引く必要がありますので、贈与を受けた金額の記入欄があります。それが贈与資料となります。
国外送金等調書
国外送金調書は金融機関が税務署への提出を義務付けられている法定調書です。対象は国外送金等の為替取引を行った顧客の次の内容の情報です。
すべての海外送金を報告義務はなく、提出する平成21年4月からは100万円超の送金が対象となっています。
- 送金者の住所氏名
- 受領者の住所氏名
- 送金年月日
- 国外の銀行等の名称
- 相手国名
- 本人口座の種類、口座番号
- 金額(外貨額、外貨名、円換算額)
- 送金原因
この資料をもとに国税局税務署では「国外送金についてのお尋ね」などの文書照会を行って、贈与税や所得税などの課税すべきことがないか確認しています。
ヨコメ資料
ヨコメ=横目です。税務調査では金融機関調査が頻繁に行われます。その際には、銀行が保管している伝票を確認します。調査対象の日のすべての伝票が編綴されているものを一枚一枚めくって、 確認するのですが、そこで多額の振込や遠隔地の預金者の伝票があったら、「横目」でちらっと見て税務署に帰ってから資料化する場合があります。○○銀行に××市在住の者が高額の預金を保有しているとか、どこどこの何某が株式会社国税商店へ何千万円の振り込みをしているなどです。
その資料が蓄積されて、贈与税や各税目の調査のもとになるのです。
法人税申告書別表第二表
別表二には申告する法人の同族株主とその続柄、保有株数が記載されています。前年度の株主と比較して変化のあった株主へ税務署から「株式の異動についてのお尋ね」と言う文書照会がなされます。株式の移動の理由や、移動の原因が売買であればいくらで売ったのか確認するための照会文書です。以前は別表二のコピーを取って、資料は国税のもつ管理システムに保管されて、必要に応じて税務調査などに活用されるのです。
各種お尋ね資料
上の法人税申告書第二表の「株式の異動についてのお尋ね」や、登記原因が「売買」となっている不動産取引についてその買主(譲受人)に対して「買い入れられた資産についてのお尋ね」などお尋ねの回答から贈与税課税につながるネタを抽出します。
まとめ
以上のように、贈与税の税務調査はそのほとんどが資料情報を基にした無申告案件です。
税務当局の担当官はいかに手間をかけずに、相続税の調査で多額の税収をあげられるかを常時考えています。贈与税案件で手間がかかって、しかも税金が取れるかどうか不確実な案件にはできるだけ手を付けたくないのが本音です。
相続税の調査で税金を取ってこなければ、褒めてもらえません(=出世できません)からね。そういったことから考えるに、いくら連年贈与が想定されるとはいえ、きちんと期限内に申告書を提出している納税者にあえて指摘をするという可能性は低いと想定されます。
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【相続税専門】岡田隆行税理士事務所 ℡087-816-8889
国税局・税務署での32年間の資産税事務経験を活かして、相続税に関するサポートに尽力します。
事務所は高松市国分寺町、趣味は料理とバイクです。